著者インタビュー「依存症の真相 ─アダルトチルドレンとADHDの二重奏─」

日本には数少ない児童青年精神科医として活躍される星野仁彦医師が、現代の日本に増え続ける心の病「依存症」に独自の切り口でメスを入れる、画期的な本が登場します。ひと口に依存症といってもその種類は非常に数多く、原因も複雑に絡み合っています。「これも依存症なの?」「どうしてやめられないの?」そんな多くの人が抱える謎を、星野医師が解決します。本書のナビゲーター役を務めてもらった、ダイエット依存症のカウンセラーとしても活躍中の作家・夏目祭子さんに、星野医師がこの本にこめた思いについて聞いてもらいました。

著者の星野仁彦医師とナビゲーター役の夏目祭子さん

夏目:これまでに「アルコール依存症」「摂食障害」「恋愛依存症」といった、1種類の症状に絞った依存症の本は色々出版されていましたが、本書のようにあらゆる種類の依存症をすべて詳しく紹介した本というのは初めてではないかと思います。きっと読者の中には“えっ、こんなのも依存症だったの?”と驚く方も多いのではないでしょうか。

星野:そうでしょうね。アルコールやドラッグ、タバコなどの「物質に対する依存症」はわかりやすいでしょうが、買い物、ギャンブル、セックスといった「行為のプロセスに対する依存症」は比較的新しい考え方ですからね。本書ではさらに踏み込んで、「人間関係に対する依存症」まで含めて紹介しています。しかし、日本ではまだこれらを依存症だと認めている医師は少ないのが現状です。既にアメリカの精神医学会では、プロセスに対する依存症までは正式に認められているのですが。

夏目:ただ、病気の種類をそんなに増やしてどうするんだ、と抵抗を感じる人もいると思うのですが、星野先生はそれを「依存症という病気」だと認めることが本人にプラスになると思われますか?

星野:はい。これまでアルコールやギャンブル、セックスなど何らかの依存症を持っている人たちに対しては、単に「だらしない性格」「意志の弱さ」の問題として、責め立てる態度が一般的だったでしょう。でも、こうした態度がかえって症状に対して逆効果になることが問題なのです。 本人の意志ではどうにもならない、「心の病気」なんだと認めるところから、本人も家族も立ち直っていくケースが沢山あるのです。

夏目:この本でも、依存症治療に成功した患者さんの実例が沢山収められています。星野先生は、精神科医として過去35年間、心の病気の治療にあたってこられたわけですが、実際に依存症になる人の数は増えているのですか?

星野:確実に増えていますね。特に1990年代以降、急カーブを描いています。

夏目:星野先生の専門分野は「児童青年精神医学」ですよね。ヴォイスの既刊本では『気づいて! こどもの心のSOS』と『知って良かった!アダルトADHD』が大変好評とお聞きしています。

青少年の心の治療を専門とする星野先生が、特に依存症の本を書く必要を感じられた動機は何でしょうか?

星野:患者さんに依存症という症状が表れるのは、早くても思春期以降、大体は大人になってからなのですが、実はその原因は、幼少期から思春期にかけて作られていることがわかったからです。

夏目:それが、タイトルにも含まれている「アダルトチルドレン(以下AC)」と「ADHD」という2つの要素ですね。星野先生が、依存症とこれらの切り離せない関係について気づいたいきさつを教えてください。

星野:まずACについてですが、私は患者さんの初診にたっぷり1時間半ぐらいかけることにしています。今の症状について聞くだけでなく、両親、祖父母など3代前までさかのぼっての家族関係、それから幼児期からの育てられ方をじっくり聞き出すのです。すると、依存症の患者さんの場合は特に、家族関係に不健全な部分がある、つまり本来の家族の機能を果たしていない「機能不全家族」で育っている人が大半であることがわかってきたのです。・うちは大丈夫、普通だ・と思っている家族が実は危ない、深刻な問題を抱えているケースが多いのです。こうした家族で育った人は、いわゆるACという共通のパーソナリティー特性を持つようになります。AC自体は病気ではないのですが、この特性が、依存症をはじめ色々な心の病の原因となりやすいのです。

夏目:星野先生のお話は「家族とは子供にとってどうあるべきか?」という人間の原点について考え直させてくれる、貴重なアドバイスになっていると思います。

星野:私は大学でも教えているのですが、学生たちを見ていると、ACの人が選びやすい学部、なりやすい職業の傾向があるんですよ。その逆で、ACの人が非常に少ない学部や職業というのもあります。

夏目:今回のコラムにも書かれてますよね。星野先生は本当に話題が豊富なので、コラムも面白いものが色々揃いました。特に、人間だけでなく犬も依存症になるというお話は、ペット愛好家にはドキリとさせられると思います。なぜそうなるのか?という星野先生ならではの原因の解明と一緒に、現在のペット業界への提案まで含まれていて、とてもためになりました。

では、もう一つの軸であるADHDについてはいかがでしょうか?

星野:これは、依存症の治療のために来られた患者さんが、実はADHDだった、というケースが少なくないからです。ADHDは、「注意欠陥多動性障害」という訳語から誤解を招きやすいのですが、知能の高い低いとは関係ない、脳機能の軽度の発達アンバランスといえます。そのために、他の子供に比べて、落ち着きなく動き回るか、ボーッとして忘れ物をしやすい、といった特徴が表れます。

夏目:その2つのタイプは「ジャイアン型」「のび太型」というわかりやすいたとえでよく知られていますよね。

星野:ADHDの問題は、一見して普通の子供であるために、障害が発見されにくいことです。代わりに「なぜ他の子にできることができないのか」「だらしがない、不真面目だ」と親や教師から責められて育つために、自己評価が低くなっていきます。これを私は「ADHDの逆スパイラル曲線」と呼んでいます。その結果、ADHDの人がACでもある、というケースが少なくありません。反対に、思春期までにADHDと診断されて、適切な治療と教育を受ければ、ほぼ問題なく社会生活を送れる場合がほとんどなのです。

夏目:星野先生ご自身がADHDでいらっしゃるということですから、とても説得力があります。ADHDは、育て方次第で大きく変わるということですね。

星野:はい。ですから、ADHDの人が成長後に陥る依存症は、ADHDそのもののせいというより、ADHDの「二次的情緒障害」といえます。結局、ACもADHDの二次的障害も、家族の問題とは切り離せないところがあります。問題児は、その家族の抱える問題を心の病気という形で代弁する、犠牲者ともいえるのです。

夏目:その意味で、星野先生は家族カウンセリングを重視していらっしゃいますよね。本書でも詳しく紹介していただきましたが、問題児の治療には家族が一致団結しての協力が欠かせないことがよくわかります。既に機能不全家族から巣立った大人の依存症の人にも「自分はなぜこうなんだろう?」という答が見つかることと思います。本書が読者にとって、これまで気づかなかった問題を自覚して、身近なところから自己改革をするきっかけになるといいですよね。星野先生には、依存症、AC、ADHDのそれぞれについて、自己診断の目安と、対処法とをたっぷり教えていただきましたから。

星野:もちろん、個人の問題は、社会の問題とも切り離しては考えられません。依存症が急増した背景には、現代がストレス社会でありながら、人間関係が希薄になっていることも大きく関わっています。特にインターネットの普及による影響は見逃せないものがあります。こうした点についても、いくつか私なりの提言をさせていただきました。

編集部:最後に、この本の魅力について、夏目さんからも一言お願いします。

夏目:この本は「依存症」「AC」「ADHD」「予防対策」の4つの章に分かれているのですが、各章のはじめに、章のテーマの基礎知識が自然に身につくような、星野先生と私の対談が収められています。とにかく本書では、依存症、AC、ADHDと、それぞれが別々の本になるような専門的知識が1冊の中にたっぷり盛り込まれています。そこで、本文を読む前に基本的な情報を頭に入れておくことで、より理解がしやすくなるように、読者を代表して、入門的な質問を星野先生にぶつけてみました。本文とはひとあじ違ったウラ話、こぼれ話も出てきますので、どうぞご期待ください。

■著者 星野仁彦(ほしの よしひこ)

1947年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業、医学博士。米国エール大学児童精神科留学、福島県立医科大学神経精神科助教授、福島学院短期大学教授などを経て、現在、メンタルヘルスセンター、福島学院大学福祉学部福祉心理学科教授。専門は、児童精神医学、精神薬理学など。

大学では精神医学や精神保健等の研究・講義のかたわら、精神科医としても、アダルトADHD、BPD他、多くの患者の治療に精力的にあたっている。著書には、『知って良かった、アダルトADHD』『気づいてこどもの心のSOS』(ヴォイス)、『幼児自閉症の臨床』(新興医学出版社)、『医師のための摂食障害119番』(ヒューマンTY)、『ガンと闘う医師のゲルソン療法』(マキノ出版)他、多数。

■取材・編集 夏目祭子(なつめ まつりこ)

1964年埼玉県生まれ、早稲田大学法学部卒業。作家、《アンチダイエット・カウンセリング》主宰。1990年代よりダイエットをやめることで体型がスッキリしやすくなるアンチダイエット説を提唱。ダイエット依存症・摂食障害を自力克服した体験を描いた小説『ダイエット破り!』(河出書房新社)で作家デビュー。『ダイエットやめたらヤセちゃった』(彩雲出版)により「過食が治った」「やせ始めた」「生き方が変わった」と多くのダイエッター・摂食障害者の熱烈な支持を受ける。また「魂に響く性教育」講師として、世界エイズデー、看護学校、看護師研修会などでも講演。近著に『性に秘められた超スピリチュアルパワー──幾千年のマインドコントロールを超えて』(徳間書店)がある。