【2006年3月号】あなたが開けた宝箱(堀江さんへの手紙)

2006年3月号

あなたが開けた宝箱(堀江さんへの手紙)

 お金の周辺には感情がたくさん埋まっています。まるで地雷源のように。あなたが確信犯的に「この世にカネで買えないものはない」と挑発すると、そこいらじゅうの地雷が誘発されて爆発しました。いたずらっ子のあなたを、神話の登場人物にあてはめると「トリック・スター」が一番ぴったりくる気がします。日本の神話ならスサノオのような。そのときのひとびとの思っているけれど表現されないものを敏感にキャッチし、誇張し、過剰に演じきる。わたしたちの意識の沼の底から、社会的に認められない強い想いが、肉体を求める亡霊のように、それに感応する個人を探し求めています。あなたは、その集合的無意識と通呈し、そこに形を与えることで、いまという時代の日本人の、大声では言いにくいけれど実はみな思っている「金をごっつう稼いだやつがエラいんや」というホンネを体現された。そうすることで、奇しくもその反対側にあるもうひとつの無意識「お金を欲しがらないヤツが一番カッコいい」を刺激することになりましたが。日本人はずーっとこのふたつのアンビバレントな想いに引き裂かれつづけてきました。まあ、どっちもどっちなんだけれど・・・。
あなたからは「オレは、このケモノ道がどこに続いているのか、谷底に生息する生き物に出会うまで、トコトン行ってやるんだ」という強い意志を感じる。過剰だが、ある種のいさぎよさもあって好ましくも思えます。時価総額七千億円くらいのところでやめることもできた。個人としても充分な金額を稼いで、欧米人の理想の若年リタイアもできたのに、そんなふうに幕を引くことはしなかったし、できなかった。トリック・スターは決してリタイアしない。
あなたがこの世にオギャーと生まれてきて、この地球でなにをなしとげるか、という強いコミットメント、それは「魂に刻まれた鋳型」のようなものかもしれませんが、そうした深い部分で、あなたには「おまえたちの無意識をオレがカタチにして生きてやる」というところがあったように思えます。この役割は、あきらかに「世界への貢献」、それもきわめてユニークな貢献なのであって、ひとびとによって尊重されるべきものです。なぜなら、無意識のうちにわたしたちがもっている想いを具体的な形にしてリアルに体験させてくれることで、わたしたちの「自己認識」「世界把握」をよりファームなものにするからです。わたしたちはあなたに、こう言うべきです。「堀江さん、あなたはわたしそのものです」と。
世界はトリック・スターにかき回されるのを待っている。自分はその役をやりたくないくせに、だれかの登場は待っているのです。世界はそのとき活性化する。悪魔がもともと神の別の顔であったように、トリック・スターも、本人はどう思っているか知りませんが、本質は神の分身です。ボランティアやチャリティだけが「貢献」ではありません。
ひとはみな、生まれ落ちてから、この世にサヨナラするまで、どこを切り取っても「成長」のプロセスにいるわけで、さまざまな成長の道を歩くことになります。そしてその、それぞれの道の下には、ひとつずつ「宝の箱」が埋まっていて、開けてみると不思議な「神の恩恵」が詰まっている。それは「経験の蜜蝋」ともいえますが、堀江さん、あなたも今回の道の下にあった輝く宝の箱を開けたのだと信じています。世界に対する貢献も大きかったわけで、宝箱の中身も豪華絢爛なものであったことが推測されます。その恩恵を受け取れるかどうかは、あなたの許容能力次第ですが、もともと大きなコミットメントができる方ですから、果敢にご自身のなかに取り込んで、さらに次なる道を歩いていかれるのだろうと拝察します。
あなたが開けた宝箱になにが入っていたのかは、興味のあるところではあります。「感情」という宝か、はたまた「人間関係」の宝か。いやいや、ひとがめったに手に入れることができないような宝だったのかもしれません。経験そのものには善悪はない。それは一見非道に感じられるかもしれませんが、人類から「良質な経験」というネクターを集めようとする神さまの巧みな采配であるともいえるでしょう。
  喜多見 龍一


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