【2009年3月号】玄さんの言葉は、なぜ短時間で伝わるのか?経験値はオーラとなって、言葉に乗りうつる。

最初に玄秀盛さんにお会いしたときは、ツァーラトウストラはかく語りきの出だしを聴いたときのように、朝日がジャンジャンジャンジャンといって昇ってくるような、オーッという感覚があった。その存在感とオーラの強さに圧倒される。このひとは、こわもてなのか、優しいのか、どっちの面も合わせもっていて、状況によって、そうか、じゃあこれだな、などと言ってどちらかを出してきそうな、そんな感じがするひとだった(二度目にお会いしたときは、その印象はかなりマイルドになったが)。

その玄さんに、先日、お忙しいなかをぬって講演をお願いし、ご一緒させていただいた。玄さんは、NPO法人、日本ソーシャル・マイノリティ協会の代表。しかし「新宿歌舞伎町の駆け込み寺の玄さん」と言った方が通りがいい。すべてが経済にからめとられる現代において、きわめて超然と、ほとんど無償でDVなどのハードコアなケースを扱う玄さんの活動は、新聞、雑誌、テレビで多々採り上げられているが、ご本人がおっしゃるには、なめた取材は受けていないので、断った数のほうが多いという。彼のセンターは、歌舞伎町のはずれ、大久保公園の向かいにあり、一階に軽食・喫茶のコミュニティ・スペースがあって、こざっぱりしている。

玄さんは生まれてから45年間、やさぐれていた。しかしHTLV-lキャリア(白血病ウィルス未発症)が献血のときに分かって、人生の手のひらが180 度ひっくり返った。ご本人は当初HIV と勘違いした、とおっしゃっていたが、人生はその瞬間に白紙に戻り、やっていた事業をすべて放り出して、いまの駆け込み寺を始めた。神戸西成区の出身で、すさまじいまでの欲望と金と修羅の45年だった。

セラピストも精神科医も、より軽度なものを扱いたがる傾向があり、たとえばDV被害者の夫がヤクザ、というケースは警察と連携していてもなお、扱いづらいだろう。ましてやこうしたケースを「短期間」で解決することにワクワクしたり、相手がヤクザだと、こいつからはエネルギーがたくさんもらえるなどと考える人間は、フツーは存在しない(玄さんは、そう感じてワクワクする、おっしゃっていた!)。

彼は別にセラピストになろうと思ったのではなく、弱者を助けたいと思っただけなはずだ。なんで短期間で解決の一歩が踏み出せるかというと、もちろん玄さんが相談者と同じ場所に立ったことがある、という親近感もあるが、彼の言葉が「届く」からだ。

ありとあらゆる辛酸、ありとあらゆる悪、ありとあらゆる人の裏、社会の裏を見てきた者だけが、ひりひりするような現実を生きている相談者の心に深い印象を残す。彼の言葉を聴いていると、本当に言葉とは、想いというエネルギーの上に、言葉という仕組みが乗っているだけなのだと思い知らされる。

45年の修羅の手のひらが返ったあとは、彼は日々、「一日一生」を生きている。ということは、明日でもない、昨日でもない、本日只今を常に生きているわけだ。別に流行の本を読んだわけではなく、自然にそこに至った。明日こうしようとも思わず、昨日こうすればよかったとも思わず、夜の11時半に就寝するらしいのだが、そこで彼の一日は完全に終わって、次の朝起きると、またまったく別の新しい自分が、まったく新しい一日を始めるのだという。

玄さんは「じゃあ、次のアポンイトメントは、来週の水曜日ね」なんて一切言わない。一回一回が勝負。しかも面談時間がきわめて短い。どうもひとり一回、30分〜40分程度らしい。そのうち10分は、相手はずっと泣いていたりするのだそうだ。10分間泣くにまかせ、次の10分で5時間かかっても語り尽くせないライフ・ストーリーを適切な質問をすることで10分で聞き出す。そして残りの10分で、相手に「気づき」を与える言葉を話しかける。救うべき相手はいくらでもいて、次から次へと来訪するわけで、彼にとって短期でひとつずつ決着させることはとても大切なことなのだと思われる。

玄さんは、物理的な指示(たとえば、一次的な避難場所など)を出すことはあるが、本質的な行動について、相手自身から「自分の腑に落ちた行動」を引き出すための「内的な気づき」を誘発させる質問や対話をおこなう。相手の立っている位置にもよるが、相手に、もう大丈夫なんだ、という「安心感」を与えなければならないケースもあるし、ある場合は、相手を「突き放す」。しかし、それでも、泣く時間も入れて30分とか40分なのだから、最先端ブリーフ・セラピー(短期療法)の極みともいえる。

彼がすごいのは、DVの被害者を追いかけてくる加害者のヤクザにも気づきを誘発することだ。DVの加害者もまたある意味、救われたい人たちなわけで、加害者をひとり気づかせると、未来の被害者を3人救ったことになる、というのが彼の数学なのだ。

なぜ彼がそんなに力があるのか、というと、彼は常に「無」であるという内的な感覚をもっており、「一日一生」を本当に生きているからだ。

玄さんは、その著書や講演で、生き方の基本をいくつか語っているが、私の好きなもののひとつに、「自分との約束は破るな」というのがある。玄さんによれば、他人との約束を守ることよりもなによりも、まずは自分との約束を守ることが先だ、と。なぜなら、自分のことを客観的に見ている自分というのもいて、それが自分が約束を破るのを見て、『あー、こいつは約束を破るやつなんだ』と思ってしまうと、必ず、世界に負けるんだ、と。たとえば朝六時に起きようと思ったら、必ず起きる。こうした小さな約束をひとつずつ守ることを積み重ねることで、自分自身の信頼を築き、ひいては、世界に信頼され、コミュニケートすることにつながってくる。成功哲学なんかより、よっぽど使えると思います。

喜多見 龍一

※講演参加者から多くのドーネーション(¥56,200程度。全額寄付済) を頂戴しました。皆さまの篤志に深く感謝いたします。

◆新宿救護センター: 〒160-0021東京都新宿区歌舞伎町2-42-3林ビル1F
TEL:03-5291-5720 (代)
相談受付時間 10:00 〜18:00 祝祭日お休み (カフェ営業時間 12:00〜16:00) 

※ご本人はご多忙です。お仕事の邪魔はしないようにしましょう。また、皆さまの浄財が彼の善意をサポートすることになります。
※私どもの講演内容録音CDは現在制作中、5 月には発売。


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