【2009年5月号】才能は、あなたのまわりから、そして自分自身から、発見をされるのを待っている。

これを書いているいま、ネットのトップニュースのひとつに、スーザン・ボイル(Susan Boyle)という47歳の、めっちゃあかぬけない、太めの英国女性が、Britains Got Talent (テレビ番組。直訳すれば「英国がもつ才能」。英国版の素人勝ち抜き歌合戦)で、息をのむような天使の歌声で熱唱。歌い始めたとたんに会場の空気が一瞬にして変わっていく様子をとらえた動画が、U-Tubeでこの時点で3千万回観られたと報告している。「使用前」(歌う前)の審査員や観客の言葉やしぐさ(このおばはんがうまいはずがないという失礼千万な言葉や露骨な表情)からは演出を感じるが、彼女が歌ったレ・ミゼラブルの「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream) が、会場の空気を一瞬のうちに変えていく部分にウソはないのかもしれない。そうかあ、天使は、実はこういう容姿をしていたのかあ、と思わせる、まったくもって天上から響く歌声なのだ。

この英国の素人歌合戦では、すでにひとつのビジネス・モデルがあって、それがポール・ポッツ(Paul Potts)だ。当時36歳の、お腹の出た、すっごくあかぬけない、すぐ顔がくもってしまうケータイ電話のセールスマンが、最初のオーディションで歌ったトゥーランドットの「誰も寝てはならぬ」で観衆の度肝を抜いたあと、実はオペラの天使であった彼は、次々と勝ち抜いて優勝。敏腕プロデューサーがバックアップして、2007年、オペラのアルバム「One Chance」を発売。3週間連続英国チャート1 獲得。その間、海外のケータイ電話会社のCMに出るわ、日本の龍角散CMに出るわ、ヨーロッパをはじめ、米国、アジアまでも席巻。ハリウッドでの映画化もすでに決定された。番組出演時の、すぐ顔のくもる、自信なさげな男はすでにいない。太った挙動不審の男性は「使用後」、オペラ歌手がやせてるわけないだろうといった風情の、自信満面のオペラ歌手となって現在の映像に映っている(一連の映像は名前などをキーにすればU-Tubeで観られる。蛇足だが、同番組で6歳のConnie Talbot コニー・タルボットちゃんが、それこそ天使の歌声でアカペラのオーバー・ザ・レインボウを歌う映像も邪気がなく、泣ける)。

私が興味深いと思ったのは、使用前使用後の成功神話演出ではなく、ひとりの人間が、だれよりも「自分自身で自分の才能を発見できていない、信頼できていない」状態から、あきらめないでやりつづけることで、いつか、とっても不思議で神聖な瞬間がやってくる、ということだ。その瞬間に、才能は発見され、自身へのゆるぎない自信も再発見され、磨かれ、さざ波のようにまわりのひとびとへと拡がっていく。

ホセ・カレーラスにあこがれて、プロのオペラ歌手となったポール・ポッツの人生も、盲腸になっても歌うことをやめず、別の番組で歌って得た8千ポンドの賞金はイタリアにオペラを学びに行くことに使われ、交通事故での長期入院した治療費を稼ぐため、しばらくオペラから身を遠ざかったときでさえも、片時もオペラのことを忘れたことはなかった。徹底的にやりつづけていると、多くの場合、なにがしかの神秘な瞬間に至る。こうしたひとたちが埋もれるか花咲くかの境目は、自分自身への「自信と信頼」にあると思われるが、往々にして、自分の才能を一番認識していないのは、自分自身なのだが。

最近、私もヴォイスのブログvoicecafe で、どえりゃー才能を発見(桃色くらげさんの「くらげな毎日」)。いま見たら、喜多見君のブログを一気に抜いて、アクセスランキング第一位に抜きん出てるし・・・。限りなく、ぐにゃぐにゃの文体。こういうのは男の子には絶対に書けないと思う。くらげさんにもポール・ポッツは起こるか。

わたし、ジャンルはなんでもいいんだと思うんです。ひとはいろんなものに惹かれて、そこを掘る。あるひとにとっては、音楽であり、文章であり、絵であるかもしれない。そうして、それがそのひとを大きく育ててくれる。他のことがなにひとつできないとしても。

世界はすべて相似象になっているので、ひとつの事象を究めていくと、そのひとつの世界のなかに、すべての世界があることに気づく。たとえば、絵描きが対象をデッサンをするとき、ギタリストがアドリブでソロを弾くとき、ひとはそこから世界全体を認識していくことができる。モノクロームな世界で明暗のグラデーションにどのような法則があるのか。聴くひとにインパクトのあるソロにはどんな音の法則があるときなのか。どういう文章でどういう世界が立ち上がるのか。これらが体得されると、その法則は他の世界にも応用可能なのだ。書籍「ソース」のなかで、ケンカ好きなはぐれ者にマイク・マクマナスは、ボクシングの分野に進むことを示唆する。

1)なにがあってもやりつづけ、2)神秘な瞬間が訪れるかもしれないことを認識し、3)その世界を徹底してきわめること。ポール・ポッツも、自分の気に入った世界を仕事にできることが夢だ、と語っている。

喜多見 龍一


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