【2010年1月号】世界は、「認知」である

9年12月の初旬に、本田腱さんとBasharが対話する、という本の収録に米国に飛んだ。
前回の対談相手、坂本さんが自然科学とすれば、本田さんは人文科学のひと。偉いなと思ったのは、ご自身が理解されていることでも、徹底して読者の質問の代弁者の立場で、あるときはひとを幸せにし、あるときはひとを不幸にする、人生の中のさまざまな要素(お金や男女関係などを含む諸々)について対話していただいた。分かりやすく、しかも深い本ができたと思う(2009.04.25発売)。

この健さんとのセッションだけでなく、22年前からバシャールはいままで、「世界は、認知である」ということを言い続けてきたように思う。ただ、人生の悲喜劇は私たちの認知がさまざまに「歪む」ことから発生する。バシャールが「電車の例」で語ったように、私たちのまわりで起きていることに、格別一方向の「意味」はない(打ち合わせ時間に遅れようとして、ホームに駆けていくと電車が出てしまう、というとき私たちに起こる感情は「事実」とは関係ない)。意味とは私たちが現象に与えている「解釈」あるいは「認知」のことであり、それが私たちの感情を「幸せ」から「不幸せ」まで振り子として揺らしている。しかし、現実に起きていることは、単にホームから電車がある方向に走っている、というだけの話なのだ。

今年の皆さまへのお年賀状は、裏面が一見暗いので、お正月に読まれるのにふさわしいか、最後まで悩んだ。自分がまあ実際にこういう状況になったときに、こういう認知ができるのか少しあやしいが、それでも実際にこうした局面を体験された何人もの方が、たとえば、「私は脳溢血になって、実は以前よりも幸せになりました」などとリハビリ中におっしゃったりするのを幾度となく聞いている。人間というのは、不思議な能力をもっていると思わざるをえない。しばしばひとは、ある一定の方向を向いて人生を生きているわけだが、その方向を向いていると見えないこともあるようで、人生に一見ガチョーンなことが起きたあとに、仕方なく方向転換すると、別の景色が見えたりする。後にそこまで含めて、そのひとの人生だったんだ、と思われたりもするのだ。

賢明な読者の皆さんは、もうお気づきかもしれないが、バシャールと、同じくひとの「認知」を扱う「NLP」とは、きわめて相性がよく、かつふたつの世界はかなりオーバーラップしている。たとえば、私たちの意識のなかにある「時間」を過去に行ったり未来に行ったりする「タイム・ライン」という考え方。大きい、小さい、甘い、暗い、ぐにゃぐにゃするなどという認知法の「サブ・モダリティ」。小さな系から大きな系まで、さまざまなレベルでものごとを認知する「チャンク(アップ・ダウン)」。NLPの「リソース」の考え方。クリスティーナ・ホール博士が得意とされている、言葉が含まざるをえない「前提」。そして言葉の使い方が意識を規定する、という考え方などなど。バシャールも、「言葉」には相当なこだわりがあって、言葉をきっちりと定義するのが大好きなのだ。「バシャールの言葉の定義」は、きわめてプリサイスで、有名なところでは、「豊かさとは、好きなことを好きなだけ、好きな時間にすることができること」という定義のなかには、さまざまな前提が含まれている。たとえば、「豊かさとは、お金を持っている量とは無関係だ」というような。

22年前にバシャールと出会って、そしてNLPにも強い興味をもち、日本でNLPを紹介し出したのは、バシャールと出会ってからたぶん3〜4年ほどで、日本でもかなり初期の頃だったと思う。バシャールとNLPが、実は深く通底している、ということは最近意識しだした。なんでも、興味や情熱に従ってやっていくと、統合されてくるものだ。それらはみな共通のことを言っている。つまり、「世界は、認知である」ということを。

認知の歪みは、私たちの「思い込み」から多く発生する。これは英語でいうと、belief (ビリーフ。信念/思い込みの両方の意味が、英語ではひとつの言葉に込められているのが興味深い)。「思い込み」という日本語のなかには、すでに「これは悪いことだ」というニュアンスが前提されており、「信念」のなかにはすでに「これは良いことだ」が前提されている。しかし、この「意識が現実に先行する」という考えは、良くも悪くもなく、単に、私たちの「信ずるところ」によって、現実が形作られる、ということを表している。私たちがなにかを「信じる」ことによって、まさに、それに見合った現実が立ち上がってくるのだ。

今回の本田さんとのセッションでも、このことにバシャールはかなりフォーカスしていたように思う。私たちはそのことをほとんど意識していないが、どんなひとでも、実は毎瞬毎瞬、道を歩いているときでさえ、次の現実を創り続けている。

喜多見 龍一


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