【1999年11月号】親子三代続く負の遺伝。セラピーは惜しみなくそれをあばく。


1999年 1月号

親子三代続く負の遺伝。
セラピーは惜しみなくそれをあばく。


最近、尾川丈一先生の「ブリーフ・セラピー」連続講座初日を見て、久々に興奮した。やっぱ、こんな優秀でサバけた人って、いるもんなんだ。短パンTシャツの先生は、天才で職人肌セラピスト、ミルトン・エリクソンの正当な継承者は、かくありなんと思わせる風情である。まあ彼の講座はまるで落語か漫才だが、分かりやすさと深い理解が共存する希有な例でもある。たとえば 600の症例があぶりだす現代の日本。夫は頭髪薄い東大出で実は若い愛人がいる。妻は夫より10歳下のポン女出。若い時は少々きれいだった。見合い結婚。その子の、お姉ちゃんは優性遺伝で頭もきれて美しいが、弟は劣性遺伝で頭の回転が遅く、世渡りベタ。母親はこの弟を無理やり有名進学校に進ませようとするが、そのうち登校拒否になり拒食症になってしまう。この崩壊家庭の中で、密かな弱者同盟が結ばれ、母は弟を発病へと導くことで夫を振り向かせ、家庭を延命させようとしたのだ。母にとってのセカンダリー・ゲイン(二次的利得)である。こうしたケースでは弟をいくらカウンセリングしてもどーもならん。その裏には「母」がいて、さらに裏には「父」がいるからだ。真に必要なのは「母には弁護士」(離婚調停)、「弟には親との隔離」(例えば遠い学校への転校)である。ブリーフ・セラピーは、きわめて短期的に症状を治癒させるために、通常の心理療法を超えた戦略で、本質的構造をあばく。しかしこの母の負の環境は、いずこから来しか。母はその母がしたように。その母はそのまた母がしたように。父もしかり。親子三代(あるいはそれ以上)にわたって連綿と続く、負の血の連鎖と因果応報。DV(ドメスティック・バイオレンス)された子は容易にDVの親になりうる悲しさよ。しかも巧みに真実を覆い隠すベールを何枚も着て、本人でさえ気づかないくらいに。私たちは、であるからして、別の言い方をすれば「この因果応報の鎖をどこかの一点で断ち切るために生きている」ともいえる。それは母親殺しであり父親殺しである。負の血に染まった魂を、土や水や風で少しずつ脱色していく過程でもある。私たちは、負の遺伝を「気づく」という突然変異により、自分の代で止めることができる。そうして、世界は色をつける人間と、それを脱色しつづける人間とのせめぎ合いの中で、良質なアムリタを生成していくのだ。
  喜多見 龍一


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