著者インタビュー「睡眠障害は万病の元 ぐっすり眠ればすべての病気は治せる」

4時間開いているコンビニエンスストア、深夜でも煌々と輝く街の灯り、テレビゲームにインターネットに深夜のテレビ番組と、まるで現代社会は人々に「ずっと眠るな」と強いているという感じさえします。その結果、「睡眠障害」に陥る人が後を絶ちません。「夜眠れない」というのはもちろん、「昼間から眠くなる」ことが心身に及ぼす影響は計り知れず、ひいてはそれが社会全体の損失にさえつながっています。本書は精神科医の立場から、さまざまな睡眠障害の症状を診てきた著者星野先生が、「すべての病気は睡眠と密接な関係にある」との視点に立って睡眠障害を網羅した書。発行に先立ち、星野先生に現代社会の睡眠障害についてお話をうかがいました。

星野先生は精神科医の立場から、さまざまな「睡眠障害」の症状を診てこられました。とにかく、睡眠にまつわる障害というのは、いろいろな種類があるのですね。
星野仁彦
(以下、星野)
一般的には「最近、なかなか眠りにつけない」となると、すぐ「不眠症だ」となってしまいます。でも、本当は「眠れない」といっても、どんなふうに眠れないかを聞くと、いろんなパターンがあるのです。さらに、その原因を探ると、いくつもの症例が出てくる。生活パターンはどのようなものか、育った環境はどうか、過去の既往症は? と、いろいろな要素を重ね合わせなければ判断できません。背後に大きな病気が隠されている場合もありますし、睡眠障害を軽く考えてはいけません。
睡眠は肉体とも精神とも直結しているということでしょうか?
星野
睡眠障害というのは、すべての内臓疾患を疑わなくてはなりません。あと、精神状態を悪くする。これは、日常の集中力や創造力を低下させたり、感情のコントロールも鈍くさせるためです。
それなのに、現代は、人々を眠らせない生活に陥れてしまっています。
星野
24時間営業のコンビニエンスストア、テレビ放送、インターネット、テレビゲーム、携帯電話と、夜中に起きていても、いくらでも飽きないことがある。江戸時代なら暗くなれば、眠るしかなかったんですけどね。私は、よく冗談で、「睡眠障害の元凶はエジソンだ」と言っているんです(笑)。その結果、驚くほど多くの人が睡眠障害に悩まされている。1996年に全国の10大学医学部附属病院と1つの国立総合病院で疫学調査がなされたのですが、睡眠障害を訴えた人は、男性の18.7パーセント、女性の20.3パーセントもいたんです。ほぼ5人に1人。この調査からすでに10年以上経っていますから、いまはもっと高い数値になっていると思われます。
家庭でも学校でも、勉強や食事についてはいろいろと教わるのに、睡眠についてはまったく触れられませんものね。先生がよく話されている「食育」ならぬ「眠育」を子供のころから施さないといけないのでは?
星野
やはり幼いころから、睡眠がどれだけ大切かを教え込まないといけないと思いますよ。睡眠というのは、脳や肉体を休養させるだけではないのです。眠っている間には、肉体の破損箇所などを修復するためのホルモンの分泌がありますし、成長ホルモンの類も生産されます。また、最近の研究では、レム睡眠(寝ているのに脳は起きている状態)が短期記憶と密接に関係するのではないかと言われています。
昔から言われているように「寝る子は育つ」というのは、本当のことなんですね。
星野
 
真実ですよ。他にも、データとして小学生の睡眠時間と学業成績に関連があることが分かっています。睡眠不足は注意力、集中力を低下させるため、とくに国語と算数の成績が低くなっている。高校生では、数学と英語の成績の低下がみられます。睡眠時間が不規則だったり、極端に短かったりすることで、うつ病や不安障害などの心の問題も引き起こしやすくなります。「睡眠障害は万病の元」なんです。
そういえば、朝など本当に眠そうな顔で学校に向かう子どもたちを、よく見かけます。
星野
子どもも大人も朝寝坊、夜更かしは楽にできるんです。どうしても、遅寝遅起きに流されやすい。でも、夜更かしというのは慢性的な時差ぼけですから、絶対に昼間の活動に影響が出ます。実は、日本の子どもたちというのは、世界で一番眠らないとされているんですよ。日本の中学生の睡眠時間は、アメリカと比べて30分、ヨーロッパと比べて90分短いという統計があります。そして、遅寝をすると遅起きになりますから、朝食を抜くケースも増えるわけ。午前0時以降に就寝する子どもたちは、それ以前に寝た子どもたちに比べて、朝食を抜く率が2.5倍なんです。ある学者が皮肉交じり、こう言ってました。「国を挙げて、睡眠不足の子どもが将来どうなるかの壮大な実験をしている」と。睡眠不足、運動不足、偏った食事、その結果としての生活習慣病。これが子どもにも表れてきているんです。
大人になると、もう慢性の睡眠不足状態の人が大勢いるのでしょうか?
星野
そこから抜け出せなくなってしまう。大人の場合、アルコール依存症などは典型的な例でしょう。アルコールによって睡眠の質が悪くなる。そこで、よく眠ろうとして、さらにお酒を飲んで、依存症を悪化させていく。そして、アルコール依存症は肝臓病や糖尿病、高血圧や網膜剥離といった合併症を起こしますから、肉体までボロボロにしていく。精神も荒み、家族に迷惑をかけて、という負のスパイラルにはまりこんでしまうんです。
そこまで調子が悪くなっても、自分では「睡眠障害が原因だ」とは思わないのでしょうか?
星野
睡眠障害は個人の病気などに影響を与えるほかにも、社会的な影響、とくに経済的損失を与える可能性もあります。産業事故、交通事故、社会不適応者の増加、失業、平均余命の短縮、国民の負担率の増大、医療経済の破綻などなど、単に個人の肉体や精神にだけ影響が出るわけではないのです。
先生は、睡眠薬を必要以上に怖がることはないと言われてますね。「一杯のナイトキャップより、一錠の睡眠薬を」と。一般的には、睡眠薬自殺などのイメージがあって、できるだけ使いたくないという思いが強いのでしょうか?
星野
いま処方されている睡眠薬では、ほとんど自殺なんてできませんよ。それだけ安全になってきています。とにかく、眠る習慣を取り戻しさえすれば、薬も使わないようにできるんです。ただ、アルコールと睡眠薬の組み合わせだけは危ないので気をつけましょう。効果が5足す5で10になるのではなく、5かける5で25になってしまう。また、本書でも紹介したような、寝る前にカフェインは控える、夜のコンビニは避けるというようなことは気をつけたほうがいでしょう。コンビニは3000ルクス程度の明るさですから、そんな光を浴びると眠れなくなります。あと、家のトイレはできるだけ暗くする、ぬるめのお風呂に少し長く浸かる、眠る前にホットミルクを飲むとかね、いろいろと快眠法はありますよ。
お昼寝も推奨されていますね。
星野
昼間に眠気が襲ってきたときは、午後3時より前に20分ほどの昼寝をするのが効果的なんです。これ以上眠ると、夜の睡眠の邪魔になります。

本書では、星野先生が臨床の現場で行なっている問診、いわゆる「星野式根掘り葉掘り」方式で聞き出した睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者さんの例を、実況中継のようにして掲載しています。この患者さんに対しても生活歴や家族関係、仕事に至るまで、あらゆることを聞き出しています。それらすべてを押さえないと、正確な判断はできないからです。かといって、何も警察の取り調べのように、厳しい尋問ではありません。今回も終始、率直に、和やかに行われました。

《星野式問診実践法・抜粋》 (Aさん:40代男性、睡眠時無呼吸症候群)

星野
体重はどれぐらいですか?
Aさん
いま97キロです。
星野
お父さんは肥満でしたか?
Aさん
肥満でした。50歳を超えてから太り出したようです。
星野
高血圧の治療は何年前ですか?
Aさん
あれは……8年前ぐらい。
星野
心疾患はどうですか? 心臓ですけど。
Aさん
心臓は問題ないみたいです。
星野
SASの判断基準として昼間の眠気の程度もあります。軽度、中程度、重度とありますが、一番眠たいときの状態は具体的にどんなふうですか?
Aさん
たとえば、テレビをつけっぱなしにしてパソコンで仕事をしていました。テレビのチャンネルを替えようとしてリモコンを握って、さて、どこに替えようかと考えている間に眠ってしまったことがあります。リモコンが落ちて、はっとして目が覚めた。
星野
昔を思い出してください。小学、中学、高校のころは、眠気を強く感じたことがありますか?
Aさん
中学三年のときに、よく授業中に居眠りしていた記憶があります。あと、学習塾の合宿で、机に突っ伏して寝ていたのも覚えています。
星野
肥満について、原因として思い当たることは?
Aさん
小学校低学年までは虚弱児でして、貧血で倒れたりしていたんです。食が細かった。
星野
喘息とかアレルギーもあったのでしょう?
Aさん
そうですね。ただ、小学四年ぐらいから食欲が出てきたんです。自分で好きな料理を作って食べることにも目覚めた。
星野
子供ながらに、グルメですね(笑)。何かストレスみたいなものはありましたか?
Aさん
抑圧かどうかは分かりませんが、一人で遊ぶことが多かったですね。家の周りで虫を捕ったり、植物採集をしたりしてました。
星野
SASでは、昼間、眠くなりますね。すると、自分の努力が足りないとか思ったりもしましたか?
Aさん
それはあります。努力すれば眠らないのではと思いつつ、失敗を更新していく(笑)。
星野
お聞きしにくいのですが、そうした失敗で会社を辞めさせられたりはしましたか?
Aさん
いいえ、仕事を変わった時は、すべてこちらの意志で退職してますね。
星野
SASだと診断されてからは、低かった自己評価が改まったのではないですか?
Aさん
はい。昼間、眠くなっても、睡眠時無呼吸のせいだと知っているかどうかで、まったく違います。人にも話せますし、その原因を取り除こうと努力もできますから。
星野
治療とともに体重をあと10キロ、20キロ落とすと、もっと楽になると思いますよ。

著者紹介 星野仁彦(ほしの よしひこ)

1947年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業、医学博士。米国エール大学児童精神科留学、福島県立医科大学神経精神科助教授、福島学院短期大学教授などを経て、現在、メンタルヘルスセンター、福島学院大学福祉学部福祉心理学科教授。専門は、児童精神医学、精神薬理学など。大学では精神医学や精神保健等の研究・講義のかたわら、精神科医としても、アダルト ADHD、BPD他、多くの患者の治療に精力的にあたっている。著書には、『知って良かった、アダルトADHD』『気づいてこどもの心のSOS』『依存症の真相』(ヴォイス)、『幼児自閉症の臨床』(新興医学出版社)、『医師のための摂食障害119番』(ヒューマンTY)、『ガンと闘う医師のゲルソン療法』(マキノ出版)他、多数。