【2009年01月号】どんな技法も、最後は使っているひとの「立っている場所」が、その質を決定する。「NLP3」

メタモデルについて、私に強い印象を残した体験がある。15年以上前、まだ初期の頃にNLPを教えてくださっていた講師の方に、「メタモデルって、なんですか?」と聞いたことがある。「じゃあ、実際の例を使ってやってみましょう」ということになった。「そうねえ、なんでもいいんだけど、たとえば、あなたが私に設定している講師料を題材にして、メタモデルを使ってみましょう」。「はい、では、なぜ私の講師料は○○なんですか?」私は、瞬間、心のなかにイヤーな感じを覚えたが、まあ行きがかり上、しゃあない、コミットするかと思って、このゲームに参加した。

「はい、それはだいたい平均○○くらいなので・・・」「平均、というのは具体的にどういう意味ですか?」「△△先生がこれくらいとかあ・・・」「その人はなにを教えている人ですか?」「××」「私はなにを教えているんでしょう? 」「NLP ・・・」「私に○○○を払うことはできますか? 」「絶対できません」「なぜ、" 絶対" とわかるんですか? 」「だって、そんなことをしたら、成り立たない」「" 成り立たない" とは具体的にどういう意味ですか? 」「・・・・」(実際には、もっと延々と質問は続いた)私はだんだん自分の胃のあたりにネガティブな感情が溜まってくるのを感じる。

そもそも、この設定自体がワークしない構造をもっている。だって、利害関係者自体が質問しているのだから。クライアント側は、最初から「あんたには説得されないぞ」と構えてしまう。この先生が題材の結果を本当に欲しかったかどうかは分からないが、しかし、ここで使われている手法は、当時(多分、いまも)、多くのNLPer が、メタモデルとはhow,what,when,why,which,who (5W1H)の質問をすることによって、クライアントが認識「できていない」ことを回復していく手法、と思っていた(いる)ふしがある。創始者バンドラー&グリンダー氏の共著「Structure of Magic(魔術の構造)」にも、クライアントの言動に含まれる「削除」、「叙法助動詞(たとえば、できない、などの助動詞)」などの回復法として、ほぼそのように読めるコンテキストで説明されている。

このメタモデルに対する温度差には、日米の文化の差も濃厚に関係しているようにも思う。だいたい日本人はあいまいの文化であって、欧米人のようにものごとをプリサイス(明確)にしていく、ということにあまり価値を置いていない。どっちが善し悪しではなく、このことに関しては、日米お互いが学ぶことがある。

こんな経緯で私はそれから10年以上、メタモデルはワークしない技法、と思い込んだままだったが、クリスティーナ・ホール博士との出会いがあって、本を編むことになり、私自身が質問&編集者だったので、理解するプロセスでホール博士のお考えが私の頭のなかに流れ込むことになり、ついに「えー、メタモデルって、そうだったのおー?」という目からウロコの瞬間がやってきた。

ホール博士著の本の編集最終段階で、追加質問に答えていただいたものをこの本の260 ページに載せてある。『メタモデルは、クライアントのどこが間違っているかを見つけ出す手法ではありません。なぜなら、ひとは制限されていないからです(ひとは、間違っている、わけではない)。これは「修復するためのモデル」ではなく、「獲得するためのモデル」です。またひとは、どんなときにも完璧に行動しており、ひとがすることのすべては”達成”です』とも語っている。この本のなかでは、「本を早く読めない」という男性のメタファー(ここでは実例)を使って、この男性の「できない」に対して、博士の質問によって、きわめて短時間に「認知の変容」を起こしていくプロセスがていねいに語られている。博士はまた、「質問とは、”導出”(elicitation クライアントから答えを引き出す)であり、同時に”導入”(installation クライアントに情報を入れる。この場合たとえば、質問者の”良き意図”をクライアントのなかに入れる、というニュアンス)でもある」ともおっしゃっています。

本が早く読めないと訴えるこの男性への、博士からの一連のメタモデルの質問は、技法としても、ダブルバインド(二重拘束)をたくみに避けたり、時間軸をバックトラックしたり未来に向かわせたり、きわめて巧みなところも多々あるが、それより私が感動したのは、クライアントと対するときに(仕事の打合せをしていても同じだが)、博士が人間として立っている位置だ。

ヒューマニティは、技法を越える。

それこそが、セラピストがもっとも大切にしなければならないもの。逆にこれが先にあれば、技術は後で追いかけてくるだろう、と思わせる希望を、ホール博士から感じ取ることができる。

喜多見 龍一


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